2009年7月5日日曜日

Amazonの追徴課税問題に関するクラウドコンピューティング的考察


朝日新聞7月7日朝刊記事より:アマゾンに140億円追徴 国税局「日本にも本社機能
http://www.asahi.com/national/update/0704/TKY200907040278.html

この問題を簡単に説明すると,Amazon.co.jp(日本)の所得をAmazon.com(米国)の所得として計上し,米国に法人税を納めていたことを東京国税局が問題視し,05年12月期までの3年間に日本国内で発生した所得のうち,応分を日本に支払うべきだったと指摘.無申告加算税と延滞税を含めて1億1900万ドル,当時の為替レート換算で約140億円の追徴課税処分を課したというもの.アマゾン側は米国に納税しており,日本側の指摘を不服として日米の二国間協議を申請.日米の税務当局間で現在,協議中という.

つまり,これまで,Amazonの日本における売り上げは,米国におけるそれと合算されていたのだ.我々がamazon.co.jpから購入すると,実は,amazon.comから購入するのと同じだったのだ.

日本と米国で税率はほぼ同じらしいが,分散して払うよりも,まとめて払った方が税額を安くなるらしい.このような「テクニック」は以前から知られており,問屋(といや)商法と名付けられている.古風な名前だ.

> 米関連会社はアマゾンジャパンに販売業務を、「アマゾンジャパン・ロジスティクス」(千葉県市川市)に物流業務を、ともに委託して手数料(コミッション)を支払う一方、それ以外の大半の中枢機能は米側に集中させていた。問屋(といや)(コミッショネア)商法の一種とみられる。

問屋商法の解説が下記中にある.
http://www.asahi.com/national/update/0704/TKY200907040278_01.html
> 〈問屋商法〉 進出先の現地法人には販売などごく一部の業務に限定させる一方で、在庫の管理や為替変動などのリスクとともに、管理部門も本国に集中させてコストを削減することで、利益の最大化を図ることができる。米系の多国籍企業などに近年、採用されるケースが多いとされるが、進出先の国にとっては課税対象になる所得の流出につながる側面がある。

Amazonは一般消費者向け小売りをインターネット上で展開している訳で,その取扱い数は膨大,簡単にはできない.Amazonはクラウドという,一種の集中システムを作り上げているために,膨大な商品の種類と数を扱いながら,世界規模でこのようなことが可能になった.

そしてこのようなことをやっている可能性は日本だけではない可能性は高い.もしかしたら,国別に最適化し,安くなるかどうかで,米国集中させるかどうかを分けているかもしれない.

Asahi.comによると,売り上げを合算すること自体は合法的のようである:

> 日米租税条約では、米企業が支店など「恒久的施設(PE)」を日本国内に持たない場合、日本に申告・納税する必要はない。アマゾンは市川市に物流センターがあり、仕入れた書籍などが置かれている。

> こうした倉庫はPEに当たらない。しかし国税局は、
  1. >米関連会社側のパソコンや機器類がセンター内に持ち込まれて使用されていた
  2. >センター内の配置換えなどに米側の許可が必要だった
  3. >同じ場所に本店を置く日本法人ロジスティクスの職員が、米側からメールなどで指示を受けていた
  4. >物流業務以外に、委託されていない米側業務の一部を担っていた
>――などに注目。センター内にPEが存在するとして、05年12月期までの3年間に日本国内で発生した所得のうち、応分を日本で申告すべきだったと指摘した模様だ。

つまり,「恒久的施設」があるかどうかがポイントのようだ.おそらく,サーバが日本にあると,確実にアウト(違法).これはクラウドでクリア可能.しかし,クライアントパソコン,周辺機器があったら駄目ということで,これは避けようがない.つまり,クラウド化だけでは所得合算は合法にならないというのが,東京国税局の判断.

日米の二国間協議中のようだから,この先,どうなるか,興味深い.

本件,誰が得か損か考えてみよう.
・アマゾン社:税金が節約できるので得.
・日本国政府:税金流出なので損.
・米国政府:税金流入なので得.
・日本の消費者:税金節約のおかげで商品価格や運送価格の設定が安くなっているとすると一見,得.しかし,大局的に考えると,我が国に来るべき税金が海外流出してしまっているので,損.

もし,クライアントパソコンや周辺機器があっても「恒久的施設」にはあたらないということになれば,これはかなりインパクトのある結果となる.クラウドコンピューティング技術を持つ国は,税金という形で,世界からお金を集められるからだ.米国は,この方面で圧倒的に優位.しかも不況で税収が落ち込み財源不足,しかし,景気浮揚・失業対策のため,大きな公共投資をしようとしている最中.とすると,日米二国間協議で,米国が有利になるように強く交渉してくる可能性は高いかもしれない.

(以下は2009-07-06に追記.)

アマゾン側の立場に立って,どうしたら「アウト」にならならいか考えてみよう.上記1~4の条件をくずせばよい.

1.PCを持ち込まず,PCとはいえない,Thin ClientあるいはWeb Browserだけが動く計算機環境をデータは日本側に置かない.(おそらくデータキャッシュはよいであろう)徹底的にクラウドにする.「機器類」がプリンタを含むとちょっと苦しい.オフィスソフトもクラウド版を使わねばならないとすると,可能性はあろうが,現状では,実際は苦しいところがあるだろう.

2.「配置換え」が何を意味するか分からないが,「配置換え」に関する指示は米国の許可を必要としないようにする.おそらく,委託先(アマゾンジャパン,アマゾンジャパン・ロジスティクス)に権限を持たせればよい.

3.米側からロジスティクスへの直接メールはやめる.

4.物流業務以外をロジスティクスにやらせない.

この方面の素人による考察であるが,出来る可能性はありそう.

産業界は,新技術を開発しながら「隙間」を突き,新市場を開拓あるいは奪取してきた面がある.市場(占有率)というものは,簡単には取れない.新たな市場を創出できると,大きく発展して,勝ち組になれる可能性がある.Googleもそう,思い起こせばマイクロソフトもそう.スターバックスやマクドナルドもそうだ.日本においては,発表酒,ユニクロ.

数々の新しい道を切り開いてきたアマゾンであるから,今回の問題も,米国政府の追い風を受けて,道を見出す可能性はある.そして,Amazon Web Serviceのパターンのように,そこで得られたノウハウをシステム(あるいはコンサルテーション)として,売り出すかもしれない.

クラウドを制するもの,世界を制する,かもしれない.

最後に,気になること.グーグルは問屋商法をやっているのだろうか? モノの物流がないから,同商法を必要としていないのかもしれない...クラウド,恐るべし.