2009年8月15日土曜日

追悼 ハワード・ゴビオフさん(グーグル社)

丸山不二夫先生によるTwitterでのつぶやき(2009年8月14日)により,グーグル社のハワード・ゴビオフさん(Howard Gobioff, Mr., PhD)が,2008年3月11日にお亡くなりになっていたことをに知りました.同氏の正式追悼ページがこちらにあります.トップページの文章は淡々と書かれていますが,胸を打たれます.About Howrardタブには彼をよく知る人による想い出が,写真タブページには彼の思い出の写真が掲載されています.

グーグル社のほとんどのデータはGoogle File System (GFS)という独自ファイルシステム上に保存されています.グーグルの検索, GMail, Maps等,同社の主要サービスのほとんどがGFSを使っているはずです.このGFSの主要開発メンバーの一人がHoward Gobioffさん.CMUでPhD取得後,グーグル社がまだ20人位の小さな会社だった頃に入社した,初期メンバーの一人とご本人からかつて伺いました.

GFSの論文は,OSに関する学術会議の最高峰の一つ,ACM Symposium on Operating Systems (SOSP)の第19回(2003年)で発表されました.この年はニューヨーク州のジョージ湖湖畔のホテルで開催されました.私もこの会議に出席し,GobioffさんによるGFSの講演を拝聴したのが最初の出会いになります.

2004年に,渋谷にグーグル日本支社が設立されましたが,その立ち上げに米国グーグル社から派遣されたエンジニアがゴビオフさんです.あのGFSの開発者が我が国に来てくれた事を知り,嬉しく思いました.

当時私は,情報処理学会オペレーティングシステム研究会の主査を務めており,研究発表会やシンポジウムの企画を担当していましたが,できるだけ多くの人に彼の講演を聴いてもらおうと,2005年の情報処理学会並列/分散/協調処理に関するサマー・ワークショップ(SWoPP, 2005年8月,佐賀県武雄市)での招待講演を企画し,講演をお願いしたところ,快く引き受けて下さいました.同氏を武雄市までお連れするために,羽田空港で待ち合わせ,飛行機,電車を乗り継いで,現地旅館および講演会場までご一緒し,帰路も含め,旅の途中でさまざまなお話を伺いました.羽田空港では阿部洋丈さん(現 豊橋技科大)や渡辺卓雄さん(現 東工大)と出会い,旅を共にしました.

その後も,筑波大でグーグル社の別のエンジニアによる講演会を開催したときにも,アレンジの手伝いをして下さり,ご同行下さいました.

前述の同氏追悼ページ内で,米国カーネギーメロン大学コンピュータサイエンス学科長のPeter Lee教授は,ゴビオフさんは日本支社の立ち上げに尽力した後,同社のマンハッタンオフィスに移ったと書いています.同氏がこよなく日本と日本の文化を愛してくれていたことも言及されています.

グーグル社のすごいところは,ユーザとして使っている分にはほとんどわかりませんが,ゴビオフさんのような,コンピュータサイエンスの博士号をもち,凄腕のソフトウェア設計&プログラミング能力をも有する人達を数多く抱えていて,情報インフラを日夜,独自開発しているところです.その様子の一端を知ってもらいたいということが,上記招待講演を企画した私の思いの一つでした.

まだ若い,日本と日本文化を愛してくれたゴビオフさんがお亡くなりになっていたことを知り,私の心は悲しみで一杯です.これからも,グーグル社のサービスを使う度に,彼が作ったGFS,および,その発展形によってデータ管理が行われていることに思いを馳せたいと思います.

ゴビオフさん,ありがとう.

2009年8月10日月曜日

リー・リトナーがつくばにやってきた

2009年8月6日,リー・リトナーがやってきた.リー・リトナーはフュージョン・ギター界の有名人.最初に聴いたのは中学生の頃なので,もう30年以上,聞き続けている.

ポスターは下記にある.
http://www.vol-vox.net/pastperformance.html

今回は下記のようなメンバー
Lee Ritenour (guitar)
John Beasly (keyboards)
Melvin Davis (bass)
Oscar Seaton (drums)
Annne Kei (vocal, piano, guitar)

リーリトナーグループに,アンナ・ケイという女性シンガー・ソングライターをフューチャーした構成.Touchという最新アルバム(3枚目オリジナル)をリーリトナーがプロデュースしている.

最初は,アンナケイのピアノ弾き語り2曲から始まった.ちょっとハスキーボイス.グランドピアノの配置位置の関係で,客席に背を向けて歌っている.2曲歌ったところでステージ前方に出てきて挨拶.プログラム説明によるとデンマーク出身.若きブロンド美人.頭の先からつま先までパーフェクトにドレスアップされている.待ちに待ったリーリトナー登場.リーのアコースティックギターのみをバックに歌う.その後,ベース,ドラムも加わる.さらにキーボードも加わる.この辺りで,アンナ・ケイ,いったん退場.インストルメンタルのみのバンド演奏となる.変化をよく考えた構成だ.

19時開始で21時過ぎまで,途中休憩なし.私にとって一生一度かもしれないリーリトナーの生演奏を堪能した.

ステージ終了後,ホワイエでCD, DVDの販売.もしかしたら,本人達がサインしてくれるかも,というアナウンス.ごった返しの中,選んだのは渡辺貞夫の1977年のライブ版.32年前の録音だ.若々しい頃のリトナー.サインして,握手してもらった.列の最後の方だったが,どうやらこのCDを他に買った人はいないようで,しげしげと手にとって眺めて,“Oh, Sadao, ...”と懐かしげ名様子.昔から,お二人の演奏好きなんですよと,英語で言ったが,通じたがどうかは定かでない.


2009年8月8日土曜日

2009年8月7日はヒロセコーミ爆弾投下の日

2009年8月7日は,日本のインターネット・ワールドの歴史の一ページになるのではないか.ヒロセ爆弾が投下された日として.

この日,広瀬香美さんは,Twitterを始めて2-3週間くらいの間に身辺に起きた一連の出来事を楽曲化して発表した.プロ品質の作詞,作曲,編曲,歌唱で.

本人がTwitterワールドに感銘を受け,楽曲提供を思い立ち,「ビバ☆ヒウィッヒヒー」なるタイトルを先に決めて,フリー公開をTwitter上で予告し,本当に実行した.その「本気度」はどれくらいのものか,私も(そしておそらく多くのTwitterユーザも)半信半疑であったが,その品質は,「広瀬香美」の名に恥じないプロ品質のものであった.

さらにサービス精神旺盛な広瀬さんは,ピアノデモ・バージョンまで公開した.このバージョンは,広瀬さんのメーリングリスト登録者限定でアクセスできる.

なぜこれが「爆弾」なのか?


日本におけるTwitterのユーザ数は,2009年5月推計で52万人だ.(ネットレイティングス社発表)それに対して米国は1700万人.大きな開きがある.どうして,このような開きがあるのか? 二つの理由が考えられる.

(1) Twitterが日本文化に適していない.
(2) 日本人がTwitterの使い方,楽しみ方を理解していない.

ネットレイティングス社のグラフを見れば一目瞭然だが,日本ではTwitterは現在,ブレーク以前の段階だ.ちょうど,ジェフリー・ムーア氏が言うところの「深い溝」(chasm)にあり,アーリーアダプターが利用しているが,アーリーマジョリティが使い始めるためには,「深い溝」を超える必要がある.何らかの「橋」のようなものが必要なのだ.

最近,勝間和代さんと広瀬香美さんが,Twitter上で連動して活動を展開し,Twitterユーザを惹きつけた.大手マスコミも最近,Twitterに参入し,毎日新聞は,勝間-広瀬コンビのサポートを始めた.勝間さんと広瀬さんのやり取りは,まるで誰かによってプロデュースされているのではないかと思うほど,絶妙だ.これもしかして,Twitter社がバックで何かしている? 放送作家がバックにいるんじゃない? と思うほどだ.それくらい,よくできている.勝間-広瀬コンビや「ビバ☆ヒウィッヒヒー」はTwitter社の耳に入っているかもしれないが,同社から見れば,東洋の島国で起きている一つの小さな出来事であろう.お二人とも,プロの「表現者」であり,「間」,「場の空気」を読むところで天才的なところがある.お二人は,Twitter上でその場の,間,空気を読みながら,つぶやきアクションを行っているのだ.ネットという,分散した環境で.

そのような状況の8月7日,広瀬さんの手による,Twitterをモチーフにした楽曲が公開された.この楽曲は,今は知る人ぞ知るの段階であり,アーリーアダプターを中心とした盛り上がりの最中である.ネットの動画投稿サイトには,編曲版まで登場して盛り上がりを見せている.ヒロセ爆弾の爆風波は,ちょうど今,ネット上を伝搬している最中なのである.

今回のヒロセ爆弾の面白いところは,Twitterユーザでない人,すなわち大部分の日本人に対しても,「新しいモノ」,「ちょっと変なモノ」が流行りだしたらしいということで,爆風波が伝わっていく可能性がある点である.なぜなら,楽曲という,非常に分かりやすい,一般的な媒体によって,Twitterなるものが表現されたから.

私が以前に「Twitterとは何なのか」というブログ記事で指摘させてもらったように,Twitterはプッシュ/プル統合型の通信メディアにSNS (Social Network Service)フレーバーを添えたものである.MixiやHatenaのように,総合的なサービスではなく,機能をとことん絞り込んだ,シンプルな「通信メディア」だ.複数相手に同時に送れるメール,ショートメッセージのようなものだ.このシンプルな道具の使い道が見つかるか否かが,Twitterなる通信メディアが我が国に普及するかの鍵である.

勝間-広瀬コンビによる「文字放送ラジオ」は,我々が偶然手にすることができた,キラーコンテンツだ.そして今,ヒロセ爆弾投下により,ネットを超えた爆風波が生まれ,日本全国津々浦々に伝わるかもしれない興味深い時代を,リアルタイムで我々は体験中なのである.

最後にもう一言


インターネットは誰のものでもないが,その技術の大部分は米国で開発された.インターネットだけではない.コンピュータのハードウェアも,ソフトウェアも,米国で作られたものが世界を席巻しているのが現実である.製造は,製造コストが安い他国でなされる事も多いが,基本設計は米国製である.

そして現在のコンピュータ世界は,ソフトウェア中心からサービス中心に重心を移しつつある.ソフトウェアは,ユーザのマシンにインストールされて使用されるが,サービスは,ネットの向こうのサーバで実現され,ユーザは自信のクライアントマシンからサーバに接続して,サービスを利用する.サービスの世界も,ハードウェアやソフトウェアと同様,先進的なモノは米国製である.今回話題になっているTwitterもまた,米国製だ.

結局は米国製のサービスの「輸入」に我々は励んでいるだけなのか?

Twitterは,元々,Ruby on Railsというサービス構築フレームワークを使用して作られた.そのRuby on Railsは,我が国の松本ゆきひろ氏作によるプログラミング言語の長所を巧みに活用して作られたフレームワークだ.おそらくはそのお陰で,当初から,日本語を問題なく処理できる.つまり

Ruby -> Ruby on Rails -> Twitter

という階層構造がある.我々は今,その最上段に,我が国独自の階層を作ろうとしているのだ.

Ruby -> Ruby on Rails -> Twitter -> ジャパン・コンテンツ

最下段と,最上段.嬉しいではないか.

2009年8月5日水曜日

ゴルゴ13のようなウサギ


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Originally uploaded by kzhk
我が家の塀の外側で,外の様子をじっと眺めるウサギ.いろいろと場所を探索し,背後を取られない場所を選んでいる.

家にいるときもそう,座って休むときは,背後を取られない場所を選ぶ.ゴルゴ13のように.(ゴルゴ13は,立ったままだが)

写真はクリックで拡大します.

2009年8月4日火曜日

Twitterとは何なのか

Twitterとは何なのかという問題は,なかなか奥深いテーマである.できるだけ少ない言葉で言い表すとどうなるか? 現在の私の案は次のようなものである:

Twitterとはプッシュ/プル統合型の通信メディアに,SNS (Social Network Service)フレーバーを添えたものである.

プッシュ型の通信とは,いわゆる放送という形態をとる通信メディアであり,テレビ,ラジオがその典型だ.ユーザに与えられた自由度は基本的に一つ.チャンネルを選ぶこと.選んだチャンネルから,川の水の流れのごとく,情報が流れてくる.一度チャンネルを選ぶと,ユーザは流れてくる情報を選ぶことはできない.どんな情報を流すかの制御権は情報の送信者(放送局)側にのみ委ねられているのが,プッシュ型通信の特質だ.

その反対にプル型の通信は,ユーザが情報を意図的に見に行くタイプの通信である.いわゆるWebのホームページがこれに相当する.本屋に行って本や雑誌を選ぶ行為も,プル型通信の一種であろう.

インターネットとWebはほぼ同時に一般社会に普及した.つまり,インターネットおよびWebは,プル型通信から始まった.インターネットは初期の頃から,放送との類似性が指摘されており,いずれは,インターネットと放送は統合されるであろうと,インターネット業界や研究者の多くの人が予見した.そして出てきた形態が,インターネット上のプッシュ型の情報配信である.その一例がポイントキャスト社による同名のサービスである.同社は1996年2月にサービスを開始し,2000年3月時点で朝日新聞,共同通信,時事通信,リクルートなど30社がニュースなどのコンテンツを供給している.(マイコミジャーナル2000年3月

しかし,プッシュ型の情報配信は,インターネット・ユーザに受け入られなかった.インターネット・ユーザは,テレビのような情報配信形態をインターネットに求めたのではなかった.インターネット・ユーザは,自分で見る情報を自分で選ぶ,いわゆる「サーフィン」スタイルを選んだ.

Twitterの話に戻ろう.Twitterは基本的にマイクロブログだ.ブログとは,個人が持つ,情報追記型のWebサイトだ.1回の投稿記事の追記量を140字に限っているところが「マイクロ」なところである.これだけであれば,伝統的なプル型だ.Twitterはさらに,他ユーザのマイクロブログをフォローし,フォローしているユーザの投稿記事を時系列上で並べて,さらにその中に自分の投稿記事も組み入れる,タイムラインという表示形式を提供している.このフォローという概念により,プッシュ型の要素を取り入れ,さらに,SNS的なコミュニティを,個人ごとに形成できるようにしている.そして,フォローする,フォローをやめる,といった操作をワンタッチで簡単にできるように工夫してある.また,誰が誰をフォローしているか,誰によってフォローされているかも簡単に見られるようになっていて,SNS形成を手助けしている.

Twitterがどれくらい人々に受け入れられるのか,開発者当人達も予測できなかったのではないか.他の人々,例えば,ベンチャーキャピタルに説明しても,理解を得るのは簡単ではなかったであろうと思われる.

Twitterは,プッシュ型とプル型のハイブリッド形態を作り上げて良いところ取りをし,さらに,人々を惹きつけることが分かってきたSNSフレーバーを軽く添えた.このデザインは,現在のサービスデザインのツボを付いた,巧妙なるデザインと言ってよいであろう.

初期のSNSが,招待制のような形で,クローズな世界を醸し出していたのに対して,Twitterはただフォローするだけ.よりオープンで,ライトウェイトだ.

2009年8月3日月曜日

IPA未踏の一プロジェクトマネージャより

IPA未踏(本体)は,今回から審査方式がちょっと変わりまして,応募提案全件(2009年度上期は124件)を,全PM(同5名)が目を通して採択可能な案件を探すようになりました.1件10ページとしても,1240ページの本を読むようなものですから,大変に根気を要する作業でした.その中から選んだ候補についてヒアリングを行い,十分な質疑応答を行って,最終候補を選びました.

応募124件に対して採択18件ですから,非常に狭き門であり,大部分の方は,時間を掛けて,苦労をして申請書を書いたにも拘わらず,落選してしまうわけですが,その心の痛みをひしひしと感じながら審査しています.

未踏に興味のある方は,ぜひ公開発表会等の催しにいらして,採択案件の内容を聞いてみて,質疑応答等で突っ込みを入れてみるとよいと思います.来場頂いた方も,開発者も,そしてPMにも,互いに得られるものがあると思います.

2009年8月2日日曜日

未踏成果報告会(2008年度下期,加藤・竹田PM合同)

昨日(8月1日),東京国際フォーラムでの,IPA未踏成果報告会にご来場下さった皆様,ありがとうございました.60名以上の参加があったでしょうか.10:30~16:45という長丁場でしたが,疲れがたまっていくどころか,ボルテージが上がっていく雰囲気で,大変に充実した会とすることができ,ご来場頂いた皆様,そして,発表して下さった皆様に深く感謝しております.

今回は初めて,Twitterで実況中継を試みました.http://twitter.com/kzhk

私(加藤)と竹田正幸PMのチームが交互に講演というプログラムになっていて,最初から意図した訳ではないのですが,まるで,先攻・後攻の団体戦のよう.加藤チームはインフラ層,竹田チームはメディア層といった感じで,きれいにカバーするエリアが分かれていて,それが交互に話を繰り出す形になりました.この形がうまくいったようで,最後は心地よい疲労感に包まれながらも,名残惜しく閉会という感じでした.

最後の挨拶でも申しましたが,未踏開発者の話を伺うと,元気をもらえます.そして,互いに突っ込みを入れながら盛り上がれます.もしまた機会がありましたら,今回来場して下さった皆様も,来場できなかった皆様も,お会いすることができたら幸いに存じます.