この日,広瀬香美さんは,Twitterを始めて2-3週間くらいの間に身辺に起きた一連の出来事を楽曲化して発表した.プロ品質の作詞,作曲,編曲,歌唱で.
本人がTwitterワールドに感銘を受け,楽曲提供を思い立ち,「ビバ☆ヒウィッヒヒー」なるタイトルを先に決めて,フリー公開をTwitter上で予告し,本当に実行した.その「本気度」はどれくらいのものか,私も(そしておそらく多くのTwitterユーザも)半信半疑であったが,その品質は,「広瀬香美」の名に恥じないプロ品質のものであった.
さらにサービス精神旺盛な広瀬さんは,ピアノデモ・バージョンまで公開した.このバージョンは,広瀬さんのメーリングリスト登録者限定でアクセスできる.
なぜこれが「爆弾」なのか?
日本におけるTwitterのユーザ数は,2009年5月推計で52万人だ.(ネットレイティングス社発表)それに対して米国は1700万人.大きな開きがある.どうして,このような開きがあるのか? 二つの理由が考えられる.
(1) Twitterが日本文化に適していない.
(2) 日本人がTwitterの使い方,楽しみ方を理解していない.
ネットレイティングス社のグラフを見れば一目瞭然だが,日本ではTwitterは現在,ブレーク以前の段階だ.ちょうど,ジェフリー・ムーア氏が言うところの「深い溝」(chasm)にあり,アーリーアダプターが利用しているが,アーリーマジョリティが使い始めるためには,「深い溝」を超える必要がある.何らかの「橋」のようなものが必要なのだ.
最近,勝間和代さんと広瀬香美さんが,Twitter上で連動して活動を展開し,Twitterユーザを惹きつけた.大手マスコミも最近,Twitterに参入し,毎日新聞は,勝間-広瀬コンビのサポートを始めた.勝間さんと広瀬さんのやり取りは,まるで誰かによってプロデュースされているのではないかと思うほど,絶妙だ.これもしかして,Twitter社がバックで何かしている? 放送作家がバックにいるんじゃない? と思うほどだ.それくらい,よくできている.勝間-広瀬コンビや「ビバ☆ヒウィッヒヒー」はTwitter社の耳に入っているかもしれないが,同社から見れば,東洋の島国で起きている一つの小さな出来事であろう.お二人とも,プロの「表現者」であり,「間」,「場の空気」を読むところで天才的なところがある.お二人は,Twitter上でその場の,間,空気を読みながら,つぶやきアクションを行っているのだ.ネットという,分散した環境で.
そのような状況の8月7日,広瀬さんの手による,Twitterをモチーフにした楽曲が公開された.この楽曲は,今は知る人ぞ知るの段階であり,アーリーアダプターを中心とした盛り上がりの最中である.ネットの動画投稿サイトには,編曲版まで登場して盛り上がりを見せている.ヒロセ爆弾の爆風波は,ちょうど今,ネット上を伝搬している最中なのである.
今回のヒロセ爆弾の面白いところは,Twitterユーザでない人,すなわち大部分の日本人に対しても,「新しいモノ」,「ちょっと変なモノ」が流行りだしたらしいということで,爆風波が伝わっていく可能性がある点である.なぜなら,楽曲という,非常に分かりやすい,一般的な媒体によって,Twitterなるものが表現されたから.
私が以前に「Twitterとは何なのか」というブログ記事で指摘させてもらったように,Twitterはプッシュ/プル統合型の通信メディアにSNS (Social Network Service)フレーバーを添えたものである.MixiやHatenaのように,総合的なサービスではなく,機能をとことん絞り込んだ,シンプルな「通信メディア」だ.複数相手に同時に送れるメール,ショートメッセージのようなものだ.このシンプルな道具の使い道が見つかるか否かが,Twitterなる通信メディアが我が国に普及するかの鍵である.
勝間-広瀬コンビによる「文字放送ラジオ」は,我々が偶然手にすることができた,キラーコンテンツだ.そして今,ヒロセ爆弾投下により,ネットを超えた爆風波が生まれ,日本全国津々浦々に伝わるかもしれない興味深い時代を,リアルタイムで我々は体験中なのである.
最後にもう一言
インターネットは誰のものでもないが,その技術の大部分は米国で開発された.インターネットだけではない.コンピュータのハードウェアも,ソフトウェアも,米国で作られたものが世界を席巻しているのが現実である.製造は,製造コストが安い他国でなされる事も多いが,基本設計は米国製である.
そして現在のコンピュータ世界は,ソフトウェア中心からサービス中心に重心を移しつつある.ソフトウェアは,ユーザのマシンにインストールされて使用されるが,サービスは,ネットの向こうのサーバで実現され,ユーザは自信のクライアントマシンからサーバに接続して,サービスを利用する.サービスの世界も,ハードウェアやソフトウェアと同様,先進的なモノは米国製である.今回話題になっているTwitterもまた,米国製だ.
結局は米国製のサービスの「輸入」に我々は励んでいるだけなのか?
Twitterは,元々,Ruby on Railsというサービス構築フレームワークを使用して作られた.そのRuby on Railsは,我が国の松本ゆきひろ氏作によるプログラミング言語の長所を巧みに活用して作られたフレームワークだ.おそらくはそのお陰で,当初から,日本語を問題なく処理できる.つまり
Ruby -> Ruby on Rails -> Twitter
という階層構造がある.我々は今,その最上段に,我が国独自の階層を作ろうとしているのだ.
Ruby -> Ruby on Rails -> Twitter -> ジャパン・コンテンツ
最下段と,最上段.嬉しいではないか.