2009年8月4日火曜日

Twitterとは何なのか

Twitterとは何なのかという問題は,なかなか奥深いテーマである.できるだけ少ない言葉で言い表すとどうなるか? 現在の私の案は次のようなものである:

Twitterとはプッシュ/プル統合型の通信メディアに,SNS (Social Network Service)フレーバーを添えたものである.

プッシュ型の通信とは,いわゆる放送という形態をとる通信メディアであり,テレビ,ラジオがその典型だ.ユーザに与えられた自由度は基本的に一つ.チャンネルを選ぶこと.選んだチャンネルから,川の水の流れのごとく,情報が流れてくる.一度チャンネルを選ぶと,ユーザは流れてくる情報を選ぶことはできない.どんな情報を流すかの制御権は情報の送信者(放送局)側にのみ委ねられているのが,プッシュ型通信の特質だ.

その反対にプル型の通信は,ユーザが情報を意図的に見に行くタイプの通信である.いわゆるWebのホームページがこれに相当する.本屋に行って本や雑誌を選ぶ行為も,プル型通信の一種であろう.

インターネットとWebはほぼ同時に一般社会に普及した.つまり,インターネットおよびWebは,プル型通信から始まった.インターネットは初期の頃から,放送との類似性が指摘されており,いずれは,インターネットと放送は統合されるであろうと,インターネット業界や研究者の多くの人が予見した.そして出てきた形態が,インターネット上のプッシュ型の情報配信である.その一例がポイントキャスト社による同名のサービスである.同社は1996年2月にサービスを開始し,2000年3月時点で朝日新聞,共同通信,時事通信,リクルートなど30社がニュースなどのコンテンツを供給している.(マイコミジャーナル2000年3月

しかし,プッシュ型の情報配信は,インターネット・ユーザに受け入られなかった.インターネット・ユーザは,テレビのような情報配信形態をインターネットに求めたのではなかった.インターネット・ユーザは,自分で見る情報を自分で選ぶ,いわゆる「サーフィン」スタイルを選んだ.

Twitterの話に戻ろう.Twitterは基本的にマイクロブログだ.ブログとは,個人が持つ,情報追記型のWebサイトだ.1回の投稿記事の追記量を140字に限っているところが「マイクロ」なところである.これだけであれば,伝統的なプル型だ.Twitterはさらに,他ユーザのマイクロブログをフォローし,フォローしているユーザの投稿記事を時系列上で並べて,さらにその中に自分の投稿記事も組み入れる,タイムラインという表示形式を提供している.このフォローという概念により,プッシュ型の要素を取り入れ,さらに,SNS的なコミュニティを,個人ごとに形成できるようにしている.そして,フォローする,フォローをやめる,といった操作をワンタッチで簡単にできるように工夫してある.また,誰が誰をフォローしているか,誰によってフォローされているかも簡単に見られるようになっていて,SNS形成を手助けしている.

Twitterがどれくらい人々に受け入れられるのか,開発者当人達も予測できなかったのではないか.他の人々,例えば,ベンチャーキャピタルに説明しても,理解を得るのは簡単ではなかったであろうと思われる.

Twitterは,プッシュ型とプル型のハイブリッド形態を作り上げて良いところ取りをし,さらに,人々を惹きつけることが分かってきたSNSフレーバーを軽く添えた.このデザインは,現在のサービスデザインのツボを付いた,巧妙なるデザインと言ってよいであろう.

初期のSNSが,招待制のような形で,クローズな世界を醸し出していたのに対して,Twitterはただフォローするだけ.よりオープンで,ライトウェイトだ.